Report

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PASS THE BATON
CONFERENCE 2023 REPORT

日時:2023年9月22日(金) - 23日(土)
会場:コクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」
主催:バトンのヨコク(コクヨ株式会社 / PASS THE BATON)

Contents

Index

REPORT 1

地方創生あるあるから紐解く
地域活性のヒント

2023年9月22日(金)・23日(土)で開催されたカンファレンスのDAY1では、公共空間活用に関するメディア「公共R不動産」と、豊島区池袋で道路や公園活用を行う株式会社nestの飯石藍さんと、北海道・大樹町の民間の宇宙関連企業SPACE COTAN取締役兼CMO中神美佳さん(登壇当時)を招いて、「地方創生あるあるから紐解く、地域活性のヒント」を語りました。

従来、「社会インフラ」を担うのは行政や民間大企業というイメージが先行してきましたが、近年、まちに開けたインフラ施設やプロジェクトを民間の中小企業やベンチャーが担うケースが増加しています。その土地のユニークネスを生かしたインフラ事業を創り出す、トップランナーのお二人にお話を伺いました。

中神さんの地元・北海道大樹町は、人口5400人に対して牛が25,000頭、東京23区以上の面積を持つ広大なまち。その立地を生かして、約40年前から「宇宙のまちづくり」を進めてきました。中神さんがCMO(登壇当時)を務めるSPACE COTANは、北海道大樹町で「スペースポート(宇宙港)づくり」を進めています。

「宇宙というと、一見生活と離れたところにあるように聞こえますが、実は天気予報やGoogle Map、ポケモンGOなど、人工衛星によるデータや通信って身近な生活の中にあるんです。私たちは、宇宙版シリコンバレーを作ることを掲げていて、将来的に航空宇宙産業の産業集積を北海道に広げ、日本の宇宙産業への貢献はもちろんのこと、北海道の農林漁業、観光業の競争力も高めていこうとしています」。

「スペースポートはまちづくりの話なんですと、ワクワク感を大切にして伝えるようにしています。宇宙産業は敷居が高いし、地域の方に『うちが関われることなんか、ないんじゃないの?』って捉えられることも少なくありません。

以前ある牧場の方にロケットの工場等を案内し、エンジンの燃焼試験の動画を見せる中で、その実験で使っている燃料は液化バイオメタンといって、地域の牧場から提供いただいた牛の糞尿が原料に使われていると伝えると、一気にジブンゴト化してくださって、前のめりになってくれる瞬間があったんです。なじみのある言葉に落とし込んで、距離を近づけていくことを大切にしています」。

多様なステークホルダーとの連携の中では、「ことばの使い方」や「計画の立て方」にもスタイルの違いが生じます。公共空間の活用メディアを運営し、全国各地のプロジェクトで行政と民間の間で翻訳をするような立場を務める飯石さんに、まちづくりのプロジェクト推進についても伺いました。

「言葉で“にぎわい”と言っても、人によってイメージするものは異なります。これからの暮らしを描き、あったらいいもの、ほしいものを小さく試しに作ってみる。そんな「余白」をデザインすることで、そこで何かやってみたい方が現れたり、居心地よく過ごす人が増える瞬間があるんです。どんなものを作りたいかではなく、『どんな風景をつくりたいか』を大切にしています」。

「私が池袋をフィールドに取り組んでいる“IKEBUKURO LIVING LOOP”は、2016年にリニューアルした南池袋公園と隣接する道路を活用しながら、そのエリアの魅力を上げ、回遊性を高めていくプロジェクトです。こんなことを試したい/やってみたいっていうことが、集結されるような場所としてストリートを使うという実験をしていて。マーケットやアーティストのアートワークショップなど、少しづつ形を変えながら7年間続けています」。

公共空間は誰もがアクセスできる開かれた場所だからこそ、行政・警察・民間・地元の商店会・区民など様々なステークホルダーが関わってきます。だからこそ、プロジェクトの計画や戦略が作り込まれたものであるかを求められることも。そうした状況に対して、飯石さんはあえて「余白」を残した計画を推奨しています。

「最初から大きくやろうとするということではなくて、ビジョンを作って、小さく仮設で実験をすることで風景を作って、そこから次のステップを描く、というプロセスを意識して進めています。実際に風景を作ってみてこそ、ハード的に必要な設備や、本当に必要なことが具体的に見えてくるんです。実験的で工作的で流動的な都市のあり方とか、公共空間のあり方を模索することが、私がやっている活動かなと思います」。(終)

REPORT 2

モノづくりという
地域のユニークネス

2023年9月22日(金)・23日(土)で開催されたカンファレンスのDAY2では、富山県高岡市で107年続く鋳物メーカー「株式会社能作」代表取締役社長の能作千春さん、鹿児島県阿久根市でイワシなどの水産加工業に加えて複合型施設イワシビルを運営する「下園薩男商店」の下園正博さん、地域文化商社として様々な地域の文化と経済循環を生み出す事業を展開する「うなぎの寝床」取締役の富永潤二さんにご登壇いただきました。セッションテーマは、「モノづくりという、地域のユニークネス」。

今回のセッションでは、土地に根付く産業や文化にまっすぐに向き合い、地域のモノづくりの現在をリードする3名の登壇者にお話を伺いました。基軸の事業にとどまらず、人やまちと深く関わり、地域の文化の土壌を耕しながらものづくりを動かすお三方の、それぞれの視点とは?

能作の拠点である富山県高岡市は、江戸時代に加賀藩主が鋳物工場を開設したのに始まり、「高岡銅器」と呼ばれる地域産業を興してきました。能作では、現在錫製品を中心に国内に15店舗(2023年9月時点)、さらには海外にも展開。

工場見学や鋳物製作の体験工房、富山の観光につなげるクラフトツーリズムも取り組み、地域や製品の魅力を広める活動を進めています。今回は、高岡市で民間・行政・地域住民が密に連携し地域産業の価値を生みだす事例をご紹介いただきました。

「富山県高岡市では『ものづくり・デザイン科』という授業が必修科目になっています。小学校5、6年生と中学1年生が対象となる授業のカリキュラムとして、国の『伝統的工芸品』に指定されている高岡の鋳物と漆器を学びます。

こちらは行政で行っていますが、民間である我々ものづくり企業がいないと成し得ない授業でもあるんですね。この取り組みは10数年前から始まっているのですが、当時お勉強した地域の子供たちが大きくなって『能作に入社したい』と、今、訪ねてきてくれるようになったんです。行政の方にも、地域の方にも、県外の方にも、まずは『自分たちが何をやりたいのか』を、意思を持って伝えていくことから全てが始まると思います」。
能作の従業員数は現在190名で、そのうち女性が74パーセント、工場勤務をするメンバーの平均年齢は32歳という異例さ。それらはどれも採用目標を設定したのでなく、多様な方が多様に働ける事業を作りたいなとアクションを続けた結果、自然に多様な人材が集まったそう。今では、地域を代表する企業となっています。

同じく家業を引き継ぎ、事業展開されている下園さん。1939年創業、水産加工業を中心に、全国にいわしの丸干しを納めながら、地域産品を生かした商品開発や、イワシビル(1Fショップ・カフェ、2F工場、3Fホステル)を展開、アパレル等の商品開発も行っています。拠点である鹿児島県阿久根市は人口2万人のまち。もともと観光業が盛んな地域ではなかったまちにイワシビルを展開し、地域の「らしさ」を全国に発信しています。

下園さんは、自身の存在意義と地域でのモノづくりとを重ね合わせることが多いといいます。「この家業を僕がつなげていくことは、自分自身の存在意義でもあります。そのためには多角化が必要だと思っていて。

多角化していく先でやりたいという人がいたらやってもらって、いなかったらやらない。その過程には壁もあるし、苦しいことの連続なんです。ただ、それを繰り返して周りに人が集まってくることが自分や地域の幸せにつながっていく。例えば、スーパーマリオでも、穴もクリボーもいなかったら楽しくないですよね(笑)。壁も課題もあるけれど、その繰り返しが事業をするということだと思っています」。そんな下園さんが自身の夢も語ってくれました。

「私の夢は、世界が注目するウルメイワシのアンチョビを作ることなんです。私が70歳になった時に世界一のアンチョビ職人になりたい。今43なので、あと30年ぐらいこの夢のために楽しめるわけです。なぜウルメイワシアンチョビがいいのかは、あと30分くらい必要なのでまた次回話しますね(笑)」。地域産業の起こりを紐解くと、その始まりは、その時代に生きるたった一人のロマンやアイディアだったのかもしれません。

地域文化商社として展開するうなぎの寝床の富永さんは、福岡県八女市でのアンテナショップに始まり、福岡の伝統工芸品である久留米絣を中心とした「もんぺメーカー」としても、地域特産品や物作りの背景を伝えています。福岡市内での店舗展開やオンライン販売、作り手と使い手をつなぐツーリズム事業など、地域の文化や人、経済の循環を生み出す活動に取り組んでいらっしゃいます。

そんな富永さんに、自分たちの事業における理想の姿を尋ねると、意外な言葉が返ってきました。「僕らは、地域文化商社っていう言い方をしていますが、将来の理想は、僕らがいなくなることです。ものづくりをされている人たちが、直接販売することができるなら、本当はそれが一番いい。

ただ、そういうことが苦手な方もいらっしゃるので、そういう作り手さんから僕らが仕入れをさせてもらって、伝えながら販売をしています。役割で言うと、翻訳者とか通訳者、仲介者という感じです。僕たちは作る人と買う人の間を埋めていく役割を担っています。

未来に『うなぎの寝床』が何をやっているかは正直わからないです。10年20年後に全く違うものになっている可能性もあります。どんな形であれ、モノづくりに携わりたいと思う人を増やしていきたいし、間をうめていきたいと思っています」。三者三様のスタイルで地域のユニークネスを届けるお三方からは、そのアプローチの多様さ、自分たちらしい役割の担い方を聞くことができました。(終)